「そうですか・・・それはいつごろからですか?」
「3ヶ月くらい前からですね・・・」
「そうですか。失礼ですが、その方が御友人であると思う根拠はありますか?」
「はい・・・今日持ってきてあります・・・」
私は、簡単なアクセス解析のデータ・リンクの追跡データを印刷したものを見せた。
「この大量なアクセスが彼女だとしか思えないデータがあります。どこから探してきたのか、見当もつきません・・・」
「なるほど・・・しかし、閲覧されているというだけでは、我々は何もすることはできないんですよ」
「そこを何とかできませんか?そのために、わざわざあなたに会いに来たんです」
私は、ネットストーキングの被害にあった経験がある。以前、プライベートで毎日更新していたブログに、あることないこと書きこまれ、散々な状態になった。
さらに悪いことに―――良いことかもしれないが―――それが同じ職場の後輩であることが分かってしまったのだ。後輩の名前をMとする。Mとは、月に2・3回はご飯を食べに行くくらいの仲だった。私の中では信頼できる後輩の一人であったので、正直そのことを知った時はショックを受けたのを覚えている。
当時のブログ荒らしはひどいもので、それ(誰と寝た、誰をたぶらかした、などくだらないことが多かった)を見た友人たちの中には、私におかしな偏見を持つようになってしまった人もいた。もともと精神的に強くない私は、軽い人間不信に陥り、2カ月の休暇を取ったほどだ。
現在ではかろうじて仕事に復帰することができている。
復帰してすぐに、あるプロジェクトの広報を担当することとなり、ウェブサイトを立ち上げたのだが、つくって2日もたたないうちに、Mのものとわかるアクセスが大量に入ってきている。アクセスは1日に200を超えていて、尋常ではない。
前のこともあり、怖くなった私は、ここを訪ねた。
ここは、なんでも、ネット専門の探偵らしく、たまたま目にした広告を見て、ここしかないと思ってコンタクトをとったのだ。
「同じ会社なんでしょう?サイトは確認されるものなのでは?」
「いえ・・・Mとはたまたま友人でしたが、もともとあまり関わりのない部署なので。それに、会社からではなく、自宅のPCからのアクセスなんです・・・」
「ふーむ・・・」
「お願いします・・・きもち悪くて、本当に・・・」
「うーん・・・。わかりました。なんとかしましょう。とにかく、アクセスが消えればいいんですよね?」
「はい。お願いしたいです・・・」
「では成果報酬ということで。アクセスが消えましたら、お客様の方から料金を請求させていただきます」
「大丈夫です・・・。ありがとうございます」
話が終わると、彼女は消え入るように部屋から出て行った。
男は電話をとりダイヤルを押す。
「いつもお世話になっております、Mさんですか?僕です。―――はい、本日こちらに来られました。はい。アクセスの方、ありがとうございました。一応、2日後からはなしで大丈夫ですので―――はい。よろしくお願いいたします。失礼いたします」
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