そうだ。俺は死んだんだ。
男が光の中で目を覚ますと、だんだんと視界と記憶がはっきりとしてきて、あたりの様子があらわになる。血まみれの男が何人かの人間に囲まれている。車に轢かれたのだ。まったく、なんてありがちな死に方だろう。
だが、そんなことはどうでもよかった。どうせ毎日生きていても何がしたいのかわからないような人生だったし、いやいや毎朝起きるのにもうんざりしていたところだ。これでよかった。
しかし、死んだのだというのに、こうして、自分の人生に思いめぐらせ、胸糞悪くなっている。いまの自分は誰なんだろう。俺は死んだんじゃないのか。
やがて、血まみれの男は作業のように救急隊に運ばれてゆき、身体を拭かれた。
その姿を見て男はようやく気付く。
身体とは入れ物のようなもので、精神、心のようなものは死なないのではないか。つまり、職場なんてクソくらえなんて思っていた自分、子供ができたと聞いて逃げ出した自分、毎日ビールを飲んで紛らわせていた自分は、俺自身は、いつまでも俺に付きまとってくる。
なんだ。意識は死なないんじゃないか。ふざけやがって。
死にたいと考えてももはや逃げる場所すらなかった。
「先生、彼の様態はどうですか」
「良くないですね」
医者は難しい顔をしている。
「このまま生き続けたとしても植物人間になる可能性が高いでしょう」
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- 蘇生医療の現場では、「脳波が平坦になったあとでも、数時間は意識が存続する」と見られる現象が報告されている。蘇生医療の専門家で「死後体験」の研究者でもあるサム・パーニアに、新刊について語ってもらった。
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