2013年4月7日日曜日

世界一のノート



博士の研究はついに完成した。




この世で1番素晴らしいノートをつくることに成功したのだ。



そのノートは、どれだけ乱暴に扱おうとも破れることはなく、土に風化することも、水に濡れることも、凍ってしまうこと、火が燃えうつることすらないという。



博士は助手のエヌ氏に言った。



「ついにやったぞ。なにがあっても消滅することのない、永遠のノートを創りだしたのだ!

「おめでとうございます。あとは、その素晴らしさを人々に知ってもらうだけですね」

「その通りだ。そこで、私はあることを思いついた」

「といいますと?

「このノートがどれだけすごいものかを、地獄にいって証明して来てみせるのだ」

「地獄ですか?

「そうだ。地獄には、あらゆる厳しい環境があると聞く。全てを燃やしつくすかのような烈火の炎、何物も生きてはいられないという極寒の地。果てのない砂漠や、おぞましい針の山。そのすべてに耐え、乗り越えれば、世界中の人々がこのノートの素晴らしさに気づくだろう!

「ですが博士、地獄ですよ。そこまでする必要があるのでしょうか」

「当たり前だろう。そうしなければならないのだ」



エヌ氏が何を言っても聞かず、とうとう博士は、ノートの素晴らしさを証明するために、地獄へと旅立ってしまった。






長い月日がたったあと、エヌ氏のもとに、博士が戻ってきた。



「よくぞご無事で!大変だったでしょう」

「ああ。確かに、地獄は骨が折れた。だが見ろ、このノートを」

博士が手にするノートには、破れていないどころか、傷ひとつついていなかった。

「やはり私の発明品は最高だった。いますぐ、このことを世界中に伝えよう」



博士は、地獄に行っても平気だったそのノートを、全世界へと売り出した。






しかし、いくら待てども、ノートはちっとも売れやしなかった。






「何故だ。何故売れないのだ。このノートは、地獄で使っても平気なんだぞ・・・」



「博士、ひとつだけよろしいでしょうか」



「なんだ」



「ここは地獄ではありません」



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