博士の研究はついに完成した。
この世で1番素晴らしいノートをつくることに成功したのだ。
そのノートは、どれだけ乱暴に扱おうとも破れることはなく、土に風化することも、水に濡れることも、凍ってしまうこと、火が燃えうつることすらないという。
博士は助手のエヌ氏に言った。
「ついにやったぞ。なにがあっても消滅することのない、永遠のノートを創りだしたのだ!」
「おめでとうございます。あとは、その素晴らしさを人々に知ってもらうだけですね」
「その通りだ。そこで、私はあることを思いついた」
「といいますと?」
「このノートがどれだけすごいものかを、”地獄”にいって証明して来てみせるのだ」
「地獄ですか?」
「そうだ。地獄には、あらゆる厳しい環境があると聞く。全てを燃やしつくすかのような烈火の炎、何物も生きてはいられないという極寒の地。果てのない砂漠や、おぞましい針の山。そのすべてに耐え、乗り越えれば、世界中の人々がこのノートの素晴らしさに気づくだろう!」
「ですが博士、地獄ですよ。そこまでする必要があるのでしょうか」
「当たり前だろう。そうしなければならないのだ」
エヌ氏が何を言っても聞かず、とうとう博士は、ノートの素晴らしさを証明するために、地獄へと旅立ってしまった。
長い月日がたったあと、エヌ氏のもとに、博士が戻ってきた。
「よくぞご無事で!大変だったでしょう」
「ああ。確かに、地獄は骨が折れた。だが見ろ、このノートを」
博士が手にするノートには、破れていないどころか、傷ひとつついていなかった。
「やはり私の発明品は最高だった。いますぐ、このことを世界中に伝えよう」
博士は、地獄に行っても平気だったそのノートを、全世界へと売り出した。
しかし、いくら待てども、ノートはちっとも売れやしなかった。
「何故だ。何故売れないのだ。このノートは、地獄で使っても平気なんだぞ・・・」
「博士、ひとつだけよろしいでしょうか」
「なんだ」
「ここは地獄ではありません」
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