あいつはまた呆けていやがる。
「ちんたらやってんじゃねえよ」
はっとして、すみません、といったそいつを、周りのやつらがからかう。
この工場では、ある部品製造をしていて、私はその現場監督だ。
基本的に優秀な技術者が集まるのがここだが、どういうわけかあいつが混じっていた。どうしてああもとろいやつがここへ来ることになったのか、納得できるように説明してもらいたいものだ。
「自分の仕事を分かっているのか。ここはへたな妄想をするところじゃないんだぞ」
「はい。すみません」
「例えば、このコンクリートは、工業生産における必需品だ。その技術は、俺たちがいなければ世に送り出すことはできないんだぞ」
「はあ」
「わかっているのか。とにかく仕事のスピードを上げろ。いいな」
ぼやっとした顔で、分かりました、と言ったあいつは、そのまま仕事に戻る。私たちの仕事は、今の社会になくてはならない。手を抜かれては困るのだ。
しばらく経って、あいつの姿を見なくなった。
聞くところによると、数か月の休暇をとったらしい。ただでさえ人手が多いわけではないのに、なんて非常識なやつなんだと思った。
その一報が入ったのは、あいつのことを忘れかけていた時だ。
テレビに映っているあいつは大勢を集め、美しい何かを持っていた。
「コンクリートは、工業生産における必需品以上の、”高貴な”何かになれるはずだと思ったんです」
そう言ったあいつの目は誇らしげにみえた。
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