2013年3月30日土曜日

コンクリート


あいつはまた呆けていやがる。



「ちんたらやってんじゃねえよ」



はっとして、すみません、といったそいつを、周りのやつらがからかう。



この工場では、ある部品製造をしていて、私はその現場監督だ。
  
基本的に優秀な技術者が集まるのがここだが、どういうわけかあいつが混じっていた。どうしてああもとろいやつがここへ来ることになったのか、納得できるように説明してもらいたいものだ。



「自分の仕事を分かっているのか。ここはへたな妄想をするところじゃないんだぞ」

「はい。すみません」

「例えば、このコンクリートは、工業生産における必需品だ。その技術は、俺たちがいなければ世に送り出すことはできないんだぞ」

「はあ」

「わかっているのか。とにかく仕事のスピードを上げろ。いいな」

ぼやっとした顔で、分かりました、と言ったあいつは、そのまま仕事に戻る。私たちの仕事は、今の社会になくてはならない。手を抜かれては困るのだ。



しばらく経って、あいつの姿を見なくなった。

聞くところによると、数か月の休暇をとったらしい。ただでさえ人手が多いわけではないのに、なんて非常識なやつなんだと思った。






その一報が入ったのは、あいつのことを忘れかけていた時だ。



テレビに映っているあいつは大勢を集め、美しい何かを持っていた。
 
Photo by Thomas Hauser

「コンクリートは、工業生産における必需品以上の、高貴な何かになれるはずだと思ったんです」



そう言ったあいつの目は誇らしげにみえた。




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