2013年3月25日月曜日

浦島太郎



昔々、浦島太郎が海へ漁に出ようとしていたところ、何人かの子供が何かを囲んで面白がっているのを見つけた。

何かと近寄って見ると、少年たちが囲んでいるのは亀であった。

棒でつついたり、蹴飛ばしたりして、その様子を楽しんでいるようだ。



突如浦島は使命感に駆られ、一喝して、子供たちを追い払い、亀を海へ帰してやろうとした。すると、どこからともなく声が聞こえ、みると、亀が話しているではないか。

「助けてくれたお礼がしたいのです。私と一緒に竜宮城へ来ていただけませんか」

これは面白いと思った浦島は、亀と共に竜宮城とやらへ向かうことにした。



竜宮城に着いた浦島は、この世のものとは思えないほど美しい姫に迎えられた。現実感のない美しさであるにもかかわらず、どこか懐かしいような感じがした理由は、浦島にはよくわからなかった。



「私の可愛い子供()を助けてくれてありがとう。どうぞ、ここでは面倒なことなど全て忘れて楽しんでいってください」



もてなされるままに浦島は連れられ、豪勢な食事、大勢の美女、毎日なんのしがらみもない生活を送ることになった。

これまでしたこともないような贅沢であったにもかかわらず、何故か浦島には、自分はこうするべきだったのだ、という気がしていた。



ある日浦島は思いたった。

「姫。外の世界が見てみたい。近くの海をまわって、素晴らしい景色を見ることはできないか」

「はい。では、私と一緒に回りましょうか?

姫はクスリと笑うと、ふわりと浮かび、浦島の手をとる。



「浦島。ひとつ言わなければいけないことがあります」

そういうと、姫の身体はみるみる変化して行き、いつかの亀の姿になっていた。



「実は私が、あの時の小亀なのです。黙っていてごめんなさい」

再び姫を見ると、そこにはすでに亀ではなく、こちらを申し訳なさそうに見ている美しい姫がいた



「そんなことは関係ない。俺は変わらず姫が好きだよ」

姫は嬉しそうに笑い、下を向いて照れていた。



そのまま浦島と姫は世界中の海を回った。目が覚めるように透き通った海もあれば、一筋の光と真っ暗な深い世界もあった。姫は浦島の手を引き、浦島はその手を握り返す。



それから2人は今までよりももっと愛し合った。

永遠に続く時間の中で、お互いのことだけを考えて過ごした。



しかし、浦島は少しづつ不安になってきた。

しばらく会っていない、友人たちは元気にしているだろうか?

父と母は、ちゃんと生活ができているのだろうか?



これまで考えることがなかったのも不思議だが、浦島は最近ようやく、そういったことを考えるようになっていた。



それを姫にいうと、いつもばつの悪そうな顔をして、

「本当にそう思われるのですか?

と言うのだった。



それ以上きくことはなかったものの、やはりいてもたってもいられず、ある日姫を問い詰めた。

すると泣きながらこう言うのである。



「浦島さんは、帰っても幸せになれないかもしれません。大切なものは、みんな変わってしまっているのです」



浦島は怒った。姫は、自分を帰したくないばかりに嘘をついているのではないかと思ったのだ。



姫は相変わらず泣いていたが、とうとう折れて、浦島は地上へ帰ることになった。



いよいよ出発の時に、姫は弁当くらいの大きさの箱を、浦島に渡した。



「もし、また私に会いたくなったり、辛いことがあったりしたら、この箱を開けてください。きっと良いことがありますから」



そのあと、浦島は、姫に別れの言葉を言い、何事もなく地上に到着した。



浦島が初めに目にしたものは、信じられない光景だった。

あまりにも異世界で、言葉では語りつくせなかったが、それは、浦島が知っている街と比べると、あまりに無機質で、めまぐるしく動く世界だった。



浦島はどうしてよいのかわからず、ただただ茫然としていて、ふと、持っている箱のことを思い出した。



姫。



あれだけ愛し合って、永遠の時間を共に過ごしたのに、どうして自分は自ら姫を手放してしまったのだろう。



浦島は箱に手をかけ、重い蓋をあける。



すると、浦島はたちまち光に包まれ、意識がなくなっていった。



思うのはただ姫のことだけ。

姫に会いたい。









浦島が目をあけると、そこは再び竜宮城だった。



「浦島。帰られたのですね」

「姫」

浦島はただ黙って姫を抱きしめる。



「ごめんなさい」

「いや、いいんだ。君を置いていこうとした俺が悪かった」

「ごめんなさい・・・。連れてくる時に伝えておくべきでした。ここでの時間と、地上での時間の進み方には、大きなずれがあるのです」

「そうだったか。いいんだ。君とこうして一緒にいられれば・・・。ごめんな」

「でも、あなたは身体も失ってしまった・・・」

姫は泣いている。

どうやら、地上に降り立ち、箱を開けた一瞬で、数100年分の時間が過ぎ去ってしまったようだった。浦島は死んだのだ。

「俺はこれからどうなるんだい。君と一緒にはいられないのか?

「ひとつだけ方法があります」



それは、亀を助けたときから、浦島の人生をやり直すこと。

その代わり、これまでの記憶はすべて消えてしまうとのことだった。



「わかった。そうするしかないのなら、そうしよう。記憶は消えても、君を愛している心は消えないよ。約束する」

姫はただ涙を流して、うなずいていた。



「ではさよならですね」

「きっとまた会おう」

「はい。愛してます」



浦島はうなずくと、再び光に包まれた―――。









昔々、浦島太郎が海へ漁に出ようとしていたところ、何人かの子供が何かを囲んで面白がっているのを見つけた。

何かと近寄って見ると、少年たちが囲んでいるのは亀であった。

棒でつついたり、蹴飛ばしたりして、その様子を楽しんでいるようだ。



突如浦島は使命感に駆られ、一喝して、子供たちを追い払い、亀を海へ帰してやろうとした。すると、どこからともなく声が聞こえ、みると、亀が話しているではないか。

「助けてくれたお礼がしたいのです。私と一緒に竜宮城へ来ていただけませんか」

これは面白いと思った浦島は、亀と共に竜宮城とやらへ向かうことにした。

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